がん診療の考え方

時間軸と元気度による病気の考え方

「がん診療」を考える上で、横軸を時間、縦軸を元気度で表した生物の自然史(下図)を考えます。

図は、右に行くほど元気度が低下する。すなわち、年齢と共に元気がなくなる、機能が低下していくことを示しています。

元気度は、ECOGperformance status (PS) 等により定量評価されます。
図中の横へひかれた青点線は、ECOG PS23の境目です (http://www.jcog.jp/doctor/tool/ps.html)

「治る」がんと「治らない」がん

早期がんや一部の血液腫瘍は、手術や移植、等の治療により、がんを体から取り去ることで「治す」ことが可能です。治療によって、元気度の低下を抑制できます (図中の右方向への黒点線)

一方、転移を有する進行がんは、がん細胞を体から完全に取り去ることが困難であるため、「治す」ことは難しく、治療の目的は、「病気とうまくつきあっていく」こと、すなわち「元気な時間 (青点線より上の状態を長引かせること」になります。

がん診療の基盤は緩和治療

元気な時間を延ばすために最も重要なことは、「症状を緩和すること」です。

がんに伴う症状があると、「痛いために動きたくない」「苦しいので食べたくない」など「元気度の低下」を加速させてしまいます (右図:青線で記載)

症状を緩和することで、「元気度の低下」は緩やかになるため、時間軸の段階においても、がん診療の基盤は、緩和治療になります。

従って、「抗癌剤をはじめとする積極的治療が困難になった末に、最後は緩和治療」というのは大きな誤解であり、積極的治療とは緩和治療に上乗せして行う治療です。

抗癌剤治療とは?

抗癌剤治療は、がんを小さくする、もしくは大きくなるのを遅くさせる治療であり、目的は元気度の低下速度を緩やかにすることです(「治す」ための治療ではありません)。

図のように、元気な方(黒点線より上。PS 02の段階)は、抗癌剤などの全身治療によって、がんを小さくすることで、元気度の低下速度がさらに緩やかになります。

一方、どのような抗癌剤にも、副作用があります。

このため、病状が進行し元気でなくなった方に対して抗癌剤を投与すると、副作用によって元気度の低下速度をさらに急速にしてしまう可能性があります (右図:赤線矢印)

よって、元気度の低下した方に対する抗癌剤治療は、癌と小さくしても、ご本人の元気な期間を短くしてしまうという本来の治療目的とは逆の結果を招いてしまいます。

元気度が低下した後の治療

「治らない」病気が進行すると、筋力が低下し「今日、今こそが一番よい状態(明日は今日よりも具合が悪くなる可能性がある)」という状態になります(「終末期」とよばれます)。

本段階は、緩和治療が基盤となりますが、同時に「本人や家族の後悔をできるだけ少なくするため、患者さん本人のやりたい事を見つけ、サポートしていくことが重要になります。

住み慣れた家で過ごしたい、旅行にいきたい、等、一人一人の思いは異なりますが、訪問診療や在宅緩和ケアによって多くの思いを叶えることが可能になっています。

原因検索は最小限に。選ばれた方法が正解

患者さんの体調は日々変動しますが、体調がすぐれない時に理由を探しても、原因は「がん」もしくは「がんに伴う併存症」にいきついてしまうことがほとんどです。

このため、原因検索のための検査は最小限とし、「なぜ体調がすぐれないのか」という視点から、「今の状態でできることは何か」という視点を持つようにしていきます。

終末期にどのような過ごし方をしても、限られた時間は経過します。

この時期をどのように過ごすか、ということに正解なく、選ばれた方法が「真実」であり「正解」です。

このため、「がん」ではなく、「ご本人の希望」を見つけ叶えてあげることを主眼に入れて、訪問診療を継続していきます。

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医療法人社団よるり会
目黒ケイホームクリニック

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