終末期の治療方針

前項までに病気の概念や経過について、1)「治る」病気に対しては多少の有害事象を承知で治療をする、2)「治らない」病気に対しては、うまくつきあっていくための治療を選択する、といった内容の話をしました。

本項では、「治らない」病気の経過における時間軸の最終段階 (figure4:赤枠で囲まれた部分)、「終末期」の概念や治療目標についてお話したいと思います。

本段階では、筋力低下が顕在化し元気度の再上昇は見込めないことが多く (ステロイドなどで一時的に改善することはありますが)、「今日、今こそが一番よい状態」となります。

このため、終末期における治療目標は「苦しくないような自然なお迎えを迎えさせてあげること」になります。家族に対しては、1) 治療目標が「うまくつきあうこと」から「苦しくないお迎えを迎えさせてあげること」に転換したこと、2) 今が一番元気な状態であること、3) 積極的治療はしておらず、日常生活での制限はほとんどないこと、を説明します。

☆終末期診療で重要なこと

私は、本段階で最も重要なこととして、診療の中で患者さん自身のやりたいこと・やり残したことを見つけ出し、実現させてあげることだと考えていました。
私の経験上、その多くは、「住み慣れた家で過ごしたい、自宅で死にたい」、というものでした。このため、これを実現させるべく家族への説明や地域との調整を行ってきました。
その他にも、旅行に行かれる方、やり残した仕事をされる方もいれば、抗癌剤の継続ができないことに納得がいかず、second opinionをはじめとする病院巡りを始められる方、高額な未承認治療を受けられる方まで様々でしたが、できるだけ力になれるよう努力してきました。

☆希望をかなえるために

患者さんの体調の善悪は日々変動しますが、不調の理由を検査しても、原因は「癌」もしくは「担癌状態に伴う併存症」にいきついてしまうことがほとんどです。
また、検査をすると様々な異常値が検出され、これらのデータを見つめているうちに患者本院の希望を見失っているという事態が生じてしまいます。このため、検査をはじめとする原因検索にかける時間は最小限としてきました。
どのような過ごし方をしても、限られた時間は経過します。この時期をどのように過ごすか、ということに正解なく、選ばれた方法が「真実」であり「正解」です。
しかし同時に、どのような過ごし方をしても、「あの時これをやっておけばよかったんではないか」と後悔します。このため、私は「本人の希望を叶えてあげることが、本人や家族の後悔も少なくなる」と信じ、それも医師の役割なのではないか、と考え診療を行ってきました。

☆自然史における終末期ー老衰の診療ー

進行癌同様、老化も「治らない」現象であるといえます。すなわち、時間軸の進行と共に、全身の筋力が低下します。最終的に嚥下 (飲み込み) に関連する機能が低下し、「誤嚥性肺炎」を併発するようになります。
「誤嚥性肺炎」はある程度、食事形態の変更、抗菌薬の投与、等が有用ですが、肺炎は「治る」ことがあっても、嚥下機能は「治りません」。このため、時間軸の進行と共に誤嚥・肺炎を繰り返し、最終的に経口摂取が困難になります。
一方、進行癌とは異なり「~病」のようなはっきりとした診断名がつかず元気度が低下していくために、時に家族の受け入れが困難な事も多いです。
このため、ご家族から「なんで元気がないのですが?食欲が低下しているのですか?原因は何なんですか?」と聞かれることも多くありましたが、私はこの理由を「人間であるがゆえです」と説明するようにしてきました。
すなわち、「60歳になると20歳の頃より筋力が落ち同様の活動ができなくなるのと同様で、100歳の方が60歳の頃と同様に機能を維持したいと思っても困難な事が多い。これは、人間がロボットでなく生物であるがゆえ、年齢と共に機能が低下するためです」ということです。
このため、自然史における終末期診療も進行癌の時と同様に、「自然な形で苦しくないお迎えを迎えさせてあげること」を目標とし緩和治療を進めていくことが重要になります。

☆「正解」を作り出していくための終末期医療

前述のようなケースでは、他にも「点滴をしなくて大丈夫でしょうか」「痰がゴロゴロいっていてつまってしまわないでしょうか」というような内容を聞かれることが多くあります。
「大丈夫でしょうか」というのは、「点滴しないとお迎えがきてしまうんじゃないでしょうか」を意味していると思いますが、「大丈夫=お迎えがこない」とすると、終末期は「大丈夫ではない」状況になります。
輸液による延命効果は乏しいこと、大量輸液は喀痰増量を来し逆効果であること、等ガイドラインに準じた医学的事項を説明しますが、このような質問は、家族が有する不安から発生することも多いため、一つ一つの内容よりも「自然な形でお迎えを迎えさせてあげること」という治療目標について根気強く説明するようにしています。
終末期の吸痰についても賛否両論が存在し、「吸痰することにより一時的に痰がとれるため症状緩和効果がある」という意見もあります。しかし、私自身は、「一時的に痰をとっても、すぐにまたつまることになる。吸痰も苦しくてかわいそうなのでやめてあげてほしい」というものです。
どのような介入をするは、家族の思い、これまでの介護体制、等個々で異なるため、「これが正解」というものはありません。しかし私個人の意見としては、きちんと家族に状況を説明し、場合によっては「痰がからんで苦しい→PCAポンプなどによる緩和治療」という方が理に適っているのではないかと思っています。

☆食べられなくなること

経口摂取が困難となった場合、胃瘻を造設することで経口摂取を回避し「延命」することが可能となりました。このため、「食べられなくなる」⇒「胃管挿入、胃瘻造設」のような短絡的な形で医療が進められていた時期もありました。
しかし、「胃瘻造設」をしても機能は回復するわけでなく、時間軸の進行と共にさらに低下していくことになります。やがては唾液を誤嚥し、消化管の蠕動機能も低下することで、嘔吐→誤嚥を繰り返すようになります。
最近では、このような状態で延命することが本当によいことなのか、という議論まで発展し、人間の尊厳というものが注目される時代となりました。
昔は、「食べられなくなればそれが寿命」と考えられていました。しかしいつからか、人は具体が悪くなることに必ず理由があると考えるようになり、病院に行けばその理由は必ず見つかり治る、ものと信じられるようになりました。
しかし実際には、目の前の現象全てに理由付けすることは困難な事が多く、また時間軸の進展と共に元気度が低下することは自然の摂理でもあります。終末期の医療には「正解」がありませんが、どのように真実を「正解」にしていくか、臨床医の腕のみせどころなのかもしれません。

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